このお城に私が知らない人間がいるなんて、
本当はとっても怪しくて不気味だったけど、
彼の言葉に興味をそそられたのも事実だ。

不思議の国に連れて行かれるお話は知っているけど、
不思議の国から連れ去られるお話なんて
聞いたことがない。

彼が言う不思議の国がこのお城のことだとしたら、
どこに連れて行くつもりなのか聞いてみたかった。

本当にそこに行くかは、また別の問題として――。

【コレット】
「……どこに連れて行ってくれるの?」

そう聞くと、彼は待ってましたとばかりに、
大袈裟に両手を広げてみせた。

【???】
「君が幸せになれる場所にさ!
さあ、この胸に飛び込んでおいで、
すぐにでもここから飛び立とう」

青い瞳をキラキラと輝かせながら、
大仰な台詞を言う姿はどこか滑稽で、
私は唖然としながら息を飲み込んだ。

【コレット】
「……」

……どうしよう、変な人だわ。

私はいつでも逃げ出せるように、
足元にいたましろを素早く抱き上げた。

そして足音を立てないようにそろりそろりと
二、三歩後ろに下がると、扉を背にした。

【コレット】
「……あなた、一体誰なの?」

本当なら最初に聞かなければならなかったことを、
今更ながら改めて聞く。

彼は私の肩を抱くと、
耳に唇が触れてしまう程の距離で囁いた。

【???】
「僕はこの城の正統な客人だよ。
なんといっても、君に呼ばれてきたんだからね」

【コレット】
「おかしなこと言わないで。
私はあなたなんて知らないわ」

【???】
「僕はずっと前から君を知ってるよ。
いずれ、君が僕を好きになるってこともね」

【コレット】
「……は?」

彼はさらりと金髪をかきあげると、
白い歯を見せて爽やかに笑って見せた。

【???】
「僕たちがここで出会ったのは必然だ。
そして、僕たちが愛し合うのは運命なんだって、
そうは思わない?」

【コレット】
「思わないわ」

【???】
「……」

【コレット】
「……」

【???】
「…………」

【コレット】
「…………」

【???】
「ねえ」

【コレット】
「何かしら」

【???】
「いや……なんでもない」

彼は苦虫を噛み潰したような顔をすると、
軽く頭をかいた。